さて、今日はちょっと趣向を変えて腕時計の話でも・・・。
小遣いの範囲で楽しむ時計道楽の話です。

先日、ネットオークションで腕時計を購入（落札）しました。
価格は2,100円、送料を含めると3,000円程度、古いクオーツ腕時計です。
ネットの商品説明には「使用によるキズ汚れあり、不動品又は動作未確認」、いわゆるジャンク品と呼ばれるものです。
実物の状態は手元に届かないと分かりません。キズや汚れ具合、まして動くのか、結局ゴミ箱行きなのか・・・。
購入判断は説明文と写真のみ、ノークレーム・ノーリターンがネット売買の原則ですね。

では、実際に掲載されていた写真から状態を報告します。

文字盤の色はシルバー（写真では白に見えますが）、盤上にSEIKO　QUARTZ　QZ　水晶（クオーツ）を表わすロゴ　菱形のロゴ、カレンダー機能、文字盤はバーインデックス表示、針は三針が確認できます。



時計裏面（裏蓋）にはSEIKO　552751　菱形マーク　ST.STEEL　JAPAN　A0922-8000-Gの刻印、周囲には勤続25周年　51.3.1　静岡銀行の刻印が確認できます。
一般的に「勤続25周年・・・」などの私的な刻印は、「訳アリ品」として安価になる傾向があります。オリジナルに近いほど物としての価値が高くなることはやむを得ません。



ベルトは主にダイバーズウォッチなどで使用されるラバーベルトに交換されているので、直近の使われ方はハードだったと思われます。写真からも結構な汚れとキズが確認できます。

先ほどの情報をさらに深掘り（想像も含め）してみます。

「腕時計の歴史について」
（文字盤側）
SEIKO・・・言わずもがな世界のセイコー、会社名です
QUARTZ　QZ・・・駆動方法はクオーツ（電池と電子回路を用いた水晶振動子）、1969年セイコーは世界に先駆けて高精度のクオーツ時計を発売しました。わざわざQUARTZと表示することでそれまでの手巻きや自動巻きとの差別化・先進性をアピールしています。
水晶のロゴ・・・これもクオーツであることを謳っています。
菱形のロゴ・・・この菱形の中心が抜けているのは諏訪工場製であることを意味します。当時、販売はセイコーブランドでも、設計製造を諏訪と亀戸それぞれで行っていました。亀戸製は同じ菱形でも中抜けのないZのようなロゴになっています。
カレンダー機能・・・24時になると日付が自動で切り替わる仕様になっています。
バーインデックス・・・文字盤上の時・分表示は棒状の立体デザインとなっています。
（裏蓋側）
552751・・・この番号は個体の識別を表示しています。この機種は1970年代に発売されたものであり（時計本体からは読み取れないのでネット等で調べます）、製造年は左1桁目の5より1975年、2桁目の数字が5であることから5月となります。つまり1975年5月に造られた時計で個体番号2751となります。ちなみに10月製造であれば5O（October）、11月は5N（November）、12月は5D(December)と表示されます。これはセイコー製腕時計の決まり事となっています。
ST.STEEL・・・ケースはステンレス製
JAPAN・・・日本製
A0922-8000-G・・・搭載されているキャリバー（駆動機械）の識別番号です。キャリバーからは機械の精度や製造年代、価格帯が分かります。キャリバーをネット検索すると多くの情報を得ることができます。
要約すると、「1975（昭和50）年5月セイコー諏訪工場製・クオーツ」ちょうど半世紀、50年前の時計ということが判明しました。

「持ち主について」
勤続25周年　51.3.1　静岡銀行・・・永年勤続25年を記念し、昭和51（1976）年3月1日に静岡銀行より寄贈された時計であることが推察されます、逆算すると持ち主が銀行に就職されたのは昭和26（1951）年となります。
このことから時計の製造年（1975年）と寄贈年（1976年）の整合性があります。
更にこの時計を寄贈された行員さんが大卒22歳で入行されたと仮定すれば、寄贈時の年齢は47歳、生年は昭和4（1929）年、現在96歳。高卒18歳での入行とすれば、寄贈時の年齢は43歳、生年は昭和8（1933）年、現在92歳となります。
ただし、昭和26年と言えば戦後6年しか経っていないので、新卒者ではなく復員された兵隊さんだった可能性もあるので断定はできません。
永年勤続25年と昭和51年頃の時世を考えると、寄贈された方は男性ではないかと思います。

「現物の状態」
さて、手元に届いた時計の状態ですが、やはり汚れは酷いものでした。
ラバーベルトは劣化し使い物にならないので即ゴミ箱行きです。
ガラス（風防）には線キズがありますが、視認性に問題なく交換の必要はなし。
リューズは固着もなく動作し、時刻合わせ、日付切り替えも正常に作動します。
裏蓋を開けると心配した電池の液漏れ等もなく、きれいな状態でした。
裏蓋には電池交換した日付けがびっしり記されていたので、大切に日常使いされていたと思います。
リューズを抜いて機械を外し、ケース内外を可能な限り細部まで洗浄、磨き上げを行いパッキンを交換、そして最後に電池を装着し秒針を確認すると・・・。

「動いてる！！」
最初に電池交換し不動だとがっかり感が大きいので、私は整備の最後に交換を行います。
５０年経った今も正確に時を刻んでいます




この時計がオークションに出品された経緯は分かりませんが、少なくとも最初の持ち主は戦前、戦中、戦後、荒廃、復興、高度経済成長など、様々な激動の時代を生き抜いてきた方だと思います。
いつも腕時計のユーズド品を手にすると「いったいどんな人が使っていたんだろう・・・」と想いを巡らせます。
腕時計は時間を知るだけの機械ではなく、身につけている人と時間を共有し、その人の歴史も刻んでいるような気がするのです。
再び動き始めた腕時計。これも何かの縁と感じ、私の小さな日常と見えざる過去との繋がりを感じながら使い続けたいと思います。

9月後半なれど酷暑、長文にお付き合いいただきありがとうございました。